「知らされずに生きていくより、甘い嘘で騙され続けるより、

 知らなければよかったと後悔した方がずっとマシだわ」













「雷の属性を最大限に活かすには金属…それもチャクラを吸うような特殊金属を使うって言うのがセオリーだ。
 アカデミーでもそう習っただろ?今はそういうのはやらないのか?」
「いいえ、そう学びました」
「うん。けどな、それは別に従わなきゃいけない掟じゃない。オレだって持ってないしな」
「サクモ……先生、は、忍刀だけですか?」
「まぁ大体そうだな。真似しろとは言わないさ、君は身体のバランスがとてもいい。生まれつきの資質なんだな」
「自分ではよく分かりません」
「そうだろうな。まぁ、それを活かしてみるといい。刀よりもっと長い得物を探してみよう。きっと相性が良いはずだ」



***



 生物の神経系は電気信号のON/OFFから成る、という生物学の基礎知識が、雷を持て余す私の記憶に刺さった。医療忍術は人を救うものだと思っていた。この垂れ流すだけのチャクラを、誰かの為に活かせると考えただけで、世界は少しだけ優しかったのだ。
 だからこのままアカデミーを卒業して、下忍になって少し経験を積んだらすぐに、医療忍術の方へ進むつもりでいた。私はそれをサクモさんにも話した。彼は微笑って頷いてくれた。それなのに彼が教えるのはいつだって戦う術ばかりだった。私は彼が決して嫌いではなかった。過保護な両親とも違い、持て余す教師とも違い、大雑把だけれど適切に距離を置いてくれる人だった。筋力をつけるためにもと彼が準備してくれた重い黒檀の木は、タコをつくっては潰し皮を厚くして、夏の間にすっかり手に馴染んだ。



 夏が終わる。風は涼しくなった。丘の夏草の勢いは衰えて、随分と訓練が楽になった。見下ろせば夏の間に繁った森が広がって、夕日を反射した。里の情勢は少しずつ悪化しているのが分かる。森の終わりには最近、よく煙が上がっていた。



***



 しばらくは見てやれないから、ひとりでもサボらず鍛錬するように、と少し痛いくらいに頭を撫でられてて別れたのが2ヶ月前だった。言われたとおりに毎日棒を振って、棒の先、チャクラの先まで自分のものにした。黒檀の届く限りが私の感覚の支配下だ。重たさはもう苦ではなかったし、びゅう、と音を立てて斜め後ろで音もなく止めた。



「見つかっちゃったか……ちゃん、だね?」
「はい、波風上忍」
「ん、知っててくれたんだ?鍛錬中にごめんね」
「いいえ、サクモ先生は、今日は?」
「はたけサクモさんは………亡くなったよ」
「嘘」
「嘘じゃないんだ。だから俺が来た」
「嘘」
「ごめんね、ちゃん……君を、三代目がお呼びだ」
「嘘、………」
「……行こう。歩きながら、少しだけ、話してあげるよ」



 春の夜明けの太陽みたいな髪がキラキラ光って、もっと見ていたかったのに、彼は私の隣に並んで、歩調まで合わせてくれた。さっさと歩けと、すぐに受け入れろと、忍なんだから当然だろうと、切り捨ててくれた方が、ずっとずっと良かった。優しい声が大嫌いだと思った。
 さよならさえ言えずに、秋が通り過ぎていった。










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