「知らないものを怖れるのは構わないけれど、知ることを怖れてはいけないわ。」












 アカデミーに入学するまでの幼い日々のほとんどを、私はあの丘で過ごした。
 容れ物としての自覚を持ってから、自分が如何に厄介な生き物かを認識した。感情は次々と増えていった。生まれて間もない感情に、この世界がいかに苦しくて、冷たくて、汚れているかをひとつずつ刻み込むような毎日に変化が訪れる。アカデミーの入学が決まったのだ。



***



 アカデミーはといえば、正直あまり楽しい思い出は多くない。力を培うためにやってきた子供達と、力を制御するためにやってきた私との間には単純で覆しがたい、子供には絶対的にも思える差があった。望んだ以上の力はあったから、いじめられることはなかったけれど近付いていくこともできずにいた。ショートケーキのてっぺんに載ったイチゴみたいな孤独。薄切りにされても皆と並びたかった、なんてフォークでグチャグチャにされても文句言えないくらいのイヤミにしか聞こえなかったから一度も口にしなかった。こんなもの、初めから欲しくなんてなかったのに。



 人と関わることでさらに自我や感情を覚えるうち、無意識に出来ていたはずの雷のコントロールは次第に不安定になった。けれど長くは続かなかった。私にも友達ができたのだ。今思えば、羨むことと妬むことを別々に出来る、子供にしては珍しい人達だったと思う。もっと笑うことや、自分の気持ちを相手に伝える方法を見せて教えてくれた。私はチャクラの使い方を教えることで私たちは対等だと笑っていたけれど、全ては得るものばかりだった。元々ただの容れ物だった私には雷の他に何もなかったのだ。何かを失うとしても、元々は誰かから得たものだった。誰かから得たものを与えて、また誰かが喜んでくれるなら、空っぽの私にも少しは意味があると思えた。



 十数年後、慰霊碑に名を刻まれた彼らは、アカデミーを卒業し、別々になるそのときまで、私を人として扱ってくれた。



***



 アカデミーの最後の夏休みに入る頃だった。いつもの丘でセミの声を聞いて、遠くに光る雷を眺めていた。もうすぐ梅雨が明ける。刹那に刺し込む光が美しくて、私にもできないかと少しだけ、雷を纏わせたときだった。



「ああなるほど、君も雷属性なのか」
「!!? あの…?」
「だからオレが呼ばれたんだな…なるほど、カカシと同い年くらいか?大したもんだね」
「ええと、あの、私に何か、用ですか」
「ああすまんね。ちゃん、で合ってるよな?」
「あ、はい…」
「初めまして、おじさんははたけサクモといいます。怖い人じゃないよ。多分ね」
「あ、えっと、上忍の……」
「知ってるのか。嬉しいね。ところでキミ、雷のチャクラを持ってるね?」
「はい…それが、何か」



 銀色の髪をゆらゆらとさせて、人懐っこそうに微笑う人だった。

「いや?オレの息子とおそろい(・・・・)だね」










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