「意味のないものにだって価値はあるわ」












 昨日までの身分上、私はまだアカデミーの生徒だったし、大きな問題も起こしていなかった。成績も悪くなかった。順調に行けば卒業試験を受けられるはずだったのに、初めて入った火影室で真っ先に伝えられたのは本日付けでの退学だった。



「本来は身分は問わないのじゃが、アカデミー生というのは前代未聞じゃ。せめて下忍としてでも、任務の経験を積んでからの方が良い」
「………暗殺特殊部隊というのは、希望して成るものだと思っていました」
「出来ることならそうしてやりたいところじゃがの…何せ今は人手がどれだけあっても足りんのじゃ。この里を守り抜くために、優秀な人材は少しでも多く確保しておきたい。たとえ君のような、幼い子どもでも」
「サクモ先生に会わせたのも、そのためですか」
「…彼については実に惜しいことじゃった…心中お察しする」
「結構です」
「じゃがあの短い間にも、彼は君という逸材を遺した」



 何もかも、あの夏の全てからして仕組まれていたのだ。それはそうだろう。ただの引きこもりがちな子どもの為に、里の英雄を派遣する余裕が、戦前の忍里の一体何処にあったというんだ。将来戦力となり得る子どもが戦わない分野に憧れていたと知って、人材不足の忍里はそれを全力で阻みに掛かったのだ。そして出来るだけ、自分から戦いたくなるように、即戦力となり得るように上手い方法を探した。
 はたしてそれは成功したのだ。サクモ先生と出会い、自分の疎ましいだけの能力を使いこなせるのが楽しくなかったわけがない。嬉しかった。早く誰かと戦ってみたいとさえ思った。サクモ先生は全て知っていたのだ。それでも夢を諦めろとはひとことも言わなかった。言わなかったのに。



「アカデミーを卒業し、下忍か…できることなら中忍になるまで待ってやりたかった。君ならそう時間もかからんかったはずじゃ。医療忍術に進むのもいい。中忍にもなれば、暗部と並行させるだけの技術と覚悟は出来上がるじゃろう」
「殺しながら救うんですか?」
「…医療忍術は忍をこの世に繋ぎ止めるための戦術じゃ。未だ発展途上で、この戦の中においてきっと最も成長するじゃろう。学ぶのは、それからでいい」
「…………………待っ、」
「待ってやりたかったが、仕方がない。充分な戦力たりうると、ミナトが認めたからには」
「ええ、ここに証言します」
「……。右の者を、木ノ葉隠れの里火影直轄暗殺特殊部隊に任命する」


 裏切られた、だとか傷ついた、だとか、失望するほどの期待はもうなかった。
 ただもう本当に、私はこの雷からは逃れられないのだと、穴が開くほどに思い知った。
 そして忍里が必要としているのは私でなく雷なのだと、気付いたときにはもう知っていた。私は器だった。器でしかなかった。チャクラを持って動くという以外に何の意味もない。こんな、花咲く丘に憧れて、僅かな日々で満たされていた器の自我は、器以上に価値がない。そんなの知っている。
 私がそれを知っているのに、私に優しい人がいた。私を人と、友達と、教え子と、いってくれる人がいた。もう、充分だろう。これ以上あふれ出す前に。
 
 全て蓋をしてしまおう。



「拝命します」



***



「サクモさんの息子はね、俺の教え子なんだ。少し、君に似てるよ」
「……私は娘ですけど」
「ハハ…そうじゃなくてさ。んー、そうだな…意外と素直なところとか」
「……はぁ」
「彼も暗部に招集されてる。君には通常任務に慣れるための猶予期間が付くから、彼の方が少し先輩になるね。きっと、上手くやれるよ」
「そうですか」
「ん、なんたって君たちはお揃い(・・・)だからね」



 彼は微笑って見せてくれたけれど、私は結局、一度も彼と目を合わせずに家のすぐ側の曲がり角で別れた。最後に小さな声でごめんね、と呟いた彼に、返事さえしなかった。大人がどれだけ苦しかったかなんて分からなかった。子供の頃の後悔は今になってもチリチリと肋骨の内側を焦がす。医療忍術の扉を叩くことは、ついになかった。



 そして猶予期間を終えて冬、私は白い仮面を被った。彼とおそろいの。










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