「どんなに立派な名前が付いていたって 大好きな人が呼んでくれる名前が1番素敵だわ」












 冬の空気を吸い込んだら、鼻の奥がツンとした。頬にあたる風の冷たさが、泣きそうな熱を冷ました。灰色の雲が見渡す限りの空を覆っている。雪が降るのだ。幼い私は何処かで、春の気配を感じて振り向いた。ただ歩いてきた道だけが取り残されてそこにあった。
 それが1番古い、私の記憶だった。



***



 産まれたばかりの私は、チャクラの容れ物でしかなかった。
 しかも蛇口の壊れた出来損ないのやつだ。放っておくわけにもいかないから、何かに閉じ込めて放り出してしまおうと誰かが考えたに違いない。私は自覚もないままに突然この世界に放り出された。泣き喚きながら帯電する赤ん坊を、母は泣きながら出迎えた。何処にでもある、奇妙な光景だっただろう。



 生まれた時から一緒に居るお前が制御できないのなら、一体誰がそれを止められるんだ?と優しく優しく突き放した両親に、幼い私は感謝も怒りも持たない。私はただの容れ物だった。感情が雷の流量を大きく左右することを考えるでもなく知っていたから、誰かに触れて、抱きしめてもらうために私は常に無感情で、周りの大人からすれば何と可愛げのなかったことだろう。
 けれど泣けば両親が困った顔をした。怒れば周りの全てが拒絶の目を向けた。笑えば良かったのに、思いつく事さえ出来なくて家の中で育った。



***



 その時のことを私は覚えていないけれど、父は何度も口にした。
 初めて父に連れてこられた山道を抜けて、小さな丘に出た。深い森に包まれて、森の切れ目が里の終わりを告げていた。山の向こうに目が痛むほどの光源。そこから見渡す全ての景色に、私は生まれて初めて「きれい」と呟いた。
 その時笑ったのか、泣いたのかさえ覚えていないけれど、それはおそらく、初めて雷を伴わない感情だった。両親は酷く喜んで、私を何度もこの丘に連れてきた。何度も行き来するものだから、二本の足で登るのもままならないのに、道だけはしっかりと覚えて忘れなかった。野草に覆われながらも石が多くごつごつして、春になっても僅かな花しか咲かないような、何もないこの丘でいつも、夕日だけが美しかった。



 私はこの丘で両親と沢山の話をして、何度も泣いて、やがて笑って、感情とかいう目に見えないものを手に入れた。両親はそれを見て私に、忍者になる気はあるか、と問う。私は頷く以外の回答を思いつかなかった。忍者以外の大人を見たことがなかったのだから。










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