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確かに、金属の方が雷属性との相性が良かったのだろう。それでもが何くれと理由をつけて特に愛着の無い木の棒を振り回していたのは、その相性が怖かったからだろうと、今となっては思う。疲れた左目を閉じていたオレには、錆ひとつない忍刀に伝わったチャクラが一瞬光ったことだけ分かった。音より速く。おそらくは雷光と雷鳴のように、光の速さで遥かまで伸びていくチャクラの刃が、遮るものを意に介さず全てを貫いた暫くの後に、低く背筋がざわりと粟立つような音が追いかけてきた。 雷切がチャクラを一点に『集める』技とするなら、の名も無いそれは一点に『伸ばす』技とでも言おうか。針のように細く、破壊力よりもただ一点を確実に貫通させることだけに特化され、この重力の中で光にのみ許されたスピードは貫通したその後も余ったエネルギーで何処までも伸びていくように思えた。派手でもなければ難しくも無い、シンプルでそれ故に誰も思いつかなかったその技に、終ぞ名前がつくことは無かった。 「!……ッ!!」 「やっぱり、怖いなぁ…金属は…まだちょっとピリピリする…」 「帯電して上手く医療忍術が…先に運びます!」 「ん?…歩けないやぁ。ごめんねぇ」 「……」 「大丈夫だよぅカカシ。死なないよぅ…これくらいじゃあさ」 死にそうな顔して何言ってんの、と叫びそうになって止めた。折れた黒檀の棒が視界の隅に入る。彼女の右手に握られたままの忍刀は、代役を果たし終えて柄から煙を上げていた。肉の焼ける匂いが僅かに鼻をつく。手から刀を剥がそうとした腕を咄嗟に引いて、医療忍者に視線を送った。彼は頷いて、ひとまずは刀身を布でくるみ、静電気に一瞬身を怯ませた。それでも何とか柄と掌の間に少しずつチャクラを流している姿までは見えた。立ちすくんだオレの前を、他の負傷者や捕虜が通り過ぎていく。 オレは目を閉じ首を振って、何かも分からない、目にも見えない何かを追い払って、転がった人型の炭塊には目もくれず、二つに折れた黒檀の棒を大事に抱えて、追うように病院へと向かった。 *** 出迎えにヒラヒラと揺れる彼女の手は包帯で手首から指先まで見えない。それでも5本の指は器用に揺れているから、大事はなかったようだ。大分血を流したのだろう、輸血はまだ終わっていない。 部屋の奥に並べられた丸椅子を引きずってきて、ベッドの横につけた。治療は受けたものの、チャクラ切れを起こしかけていた頭はまだ少しフラついている。お互いに無事でよかったと任務の完了を事務的に喜ぶ。上半身を起こしたは上に向かって腕を伸ばし、背骨を反らした。そしてため息とともに腕を下ろして、枕を背もたれ代わりに移動させて僅かに寄りかかる。その一連の動作に、下半身の動きを一切伴わないしなやかさ。 「上忍にもなってチャクラの制御が出来ないとかってさぁ、明らかにバカじゃない?」 「出来なかったんじゃなくて、しなかったんでしょ」 「しなかったんじゃなくて、諦めたんだよぅ。諦めたってことは、出来なかったってコトじゃない」 「どうして諦めた?」 「んー…答えが、見つかんなかった…」 「答え?何の」 「んん、なんだろ、上手く説明できないなぁ。 もういいかなって、思ったっていうか、ずっと押さえつけてきたけど、理由が何処にもなくなってて、」 「…………受け入れようとした?」 笑って欲しかった。彼女が彼女自身の力を肯定して、受け入れて、信じて頼って好きになっていけたら、厭々利用していく日々よりずっと彼女が救われるんじゃないかと、偉そうに、分かったようなふりをして、だけど本当に、純粋な好意だったのだ。笑って欲しかっただけだ。昔のさえ放って置けなくて、せめてこれからを誓いたかった。 全てのタイミングが最悪に重なる。そういうことが、一生のうちに何度あるだろう。たまたま彼女の黒檀が折れた。たまたま彼女の左足には深く刺さった刀があった。彼女はそれを引き抜いて黒檀の代替にする。それでも初めはは制御出来ていた。けれどたまたま相手が悪かった。手加減できる相手じゃなかった。左足の怪我で立ち回るにも限界がある。黒檀ならば望めたリーチも、チャクラで補うほかない。しかしたまたま金属と雷の相性が良過ぎた。少し制御を緩めた途端に、木材とは比較にならない伝達力で、刀はチャクラを帯びた。思いもよらぬ力にはチャクラを押さえ込もうとした。そしてそれを、オレの一言が止めた。 「もう受け入れてやってもいいんじゃなーいの」 おそらく、周りに被害が及ばないように、向きと圧力だけに集中してコントロールした。それ以上はただ堰き止められていたチャクラが流れるままにさせて、押さえつけるのでなく、活かそうとした。そしてそれは半分成功し、半分失敗したのだ。チャクラをコントロールしきった反面、自分への影響に対してあまりに無防備だった。はいつもそうだ。誰かや何かを受け入れるとき、いつだって無防備で、だからどんなひねくれ者だって、受け入れてしまえる。自分が傷つけられることを、分かっていても分かっていないみたいに微笑う。そして失ってさえ、は笑う。 しかし今回、その代償はあまりに大きかったことを思い知る。オレは思い出して、二つに折れた黒檀の棒をに手渡した。 「あぁあ、ついにまっぷたつ」 「また新しいのを探しとーくよ」 「いいよ。もう、これくらいの長さで丁度いい」 「…何考えてる?」 「今度は少しだけ、お揃いだよ。カカシ」 「カカシとお揃いだったのが、どれくらい嬉しかったか、分かる…?」 嬉しそうでもなく、は微笑んだ。白い唇の両端を、僅かに持ち上げただけの。そんな風に、笑って欲しかったわけじゃなかった。なかったのに。 「私の左足、もう、動かない」 それが、二度目の秋。 |