ベッドから白い肌が這い出してきて、カーテンを少し開いて外を覗く。台風が近付いて、ガタガタと窓が鳴っていた。雷鳴らないかなぁ、とはポツリと零す。彼女は自分やオレの生み出す雷には何の興味も抱かないくせに、自然に生まれる雷はテレビに魅入る子供のように飽きずにいつまでも眺めていた。興味の対象を奪われて面白くない子供がここにもひとり。大人気ない、とこの格好この状況で言うのも可笑しな話だが、横から手を伸ばしてカーテンを閉じる。白い陶器の様な肌がぼんやりと浮かび上がる。なめらかで冷たそうなのに、触れると暖かい。柔らかさがもっと欲しくて、ベッドの中に引きずり込んだ。
 台風に妬いてどうすんの、と呆れた声を出すけれどは拒まない。知っているから晒け出せる弱さを、丁寧に柔らかく包む。その中で眠ることさえ出来る。そして満足したところで、彼女はうつ伏せに枕を抱きかかえ、横になっていても落ち着かないオレの髪を白い指でつまんだ。



「チャクラの性質資質は大体が遺伝によって決まるでしょ?カカシはお父さん似だもんねぇ」
「それは見た目の話でしょーが」
「でもサクモさん雷でしょ?」
「…ま!そうだけど……お前は?」
「お母さんは水で、お父さんが土。上忍になっても、雷は持てなかったみたい」
「…隔世遺伝なのかね?」
「でもないの。ポーンっと出てきただけみたい。遺伝とかって感じじゃないしさぁ」
「ああ確かに、そんな感じだよね、お前のは」



 遺伝形質にないチャクラ性質を持って生まれること自体は、大したことじゃない。かなり珍しいことでは在るが、まったくありえないことでもない。血継限界だって、元々は突然変異が始まりだという説も強いのが現状だ。
 けれど子供心に「産まれるはずのない雷」はさぞや異常に映ったに違いない。子供は単純で、知らないことは分からないし、分からないことは変なことなのだ。オレは幼いオレや、後に教え子になったアイツを見てそれを知っている。名のある血統でもないのに、子供の頃から特定性質が突出していれば異端視されるのも必然。努力の末ならば単純な子供たちの世界で人気者にもなれただろうに、おそらくはの望まざる雷の才能はそれすらも拒んだ。傲慢にも卑屈にすらなれない不安定さに怯えて過ごしただろう。大人の目から見ても、の雷のチャクラはどうしたって、幼い手に余った。今でさえ、棒術の鍛錬を見かけることはあっても性質変化の鍛錬を見たことは一度もない。
 泣いて帰ってくる娘を、両親はよくあの丘へ連れて行ったと今は笑って話す。笑って話せるだけの時間は経っていた。あの場所に何の意味があったのかも、今は知る由もない。彼女の両親は、先の忍界大戦で亡くなった。



「お揃いだったのが、どれくらい嬉しかったか、カカシに分かる?」


   「そういやも雷属性だっけね」
   「うん、お揃いだね」
   「おそろいってお前ね…」
   「少し、嬉しいねぇ」
   「おそろいが?」
   「お揃いが」


「“少し”?」
「あの時はね。でもあれはねぇ、後からジワジワくるタイプだった」



 きっと何度も泣きそうになりながら、制御の利かない力を使いこなすよりも、初めからなかったことにしたいと思っただろう。幼くて必死の願いだったのだろうに、忍里はそれを許さない。

 オレは今でも覚えている。
 どうしてこんな、殴り殺すのにも不便そうな長い棒を持って、小さなくノ一が仮面をして暗部に混ざっているのだろうと思った。
 その頃、オレはもっとも若い隊員のひとりで、オレよりも若い彼女はより目を引いた。
 身の丈より長い棒が、ひゅるり、びゅうう、と風を切る。そしてパチリ、と光が爆ぜる。それが雷だ、とオレはすぐに気付く。
 金属でもないのに雷が棒を伝う。オレの真似をしたのかと思ったが、それもすぐに違うと気付く。
 伝う雷は留まらない。呼吸のように流れ続けるチャクラ。それを気に留める様子もない。
 なるほど、だから彼女は暗部に呼ばれたのだ…

 幼い暗部の少女はのちに内外の忍里から「雷泉」と呼ばれる。
 泉のように絶えず流れ行く雷を、は誰よりも恐れていた。



「もう受け入れてやってもいいんじゃなーいの」

 いつも何処かで、自分のチャクラを忌むような表情を見せていた。一緒に生まれてきたお前の雷を、いつまでも拒めやしない。どうせなら受け入れて仲良くやっていった方がいいに決まってると、純粋に、それだけを思って口にした。そんな口を出せるほど、を大事に思っていた。大切だった。オレと一緒にいる間だけでも、笑っていて欲しかった。はそうだね、と微笑う。ほらな、お前が笑えば、オレは結構幸せになれるもんなんだよ。とは、さすがに言えない。
 それまで彼女は本当に、自分の雷を恐れていた。だから本当に、オレは彼女の笑顔が見たいがために、その台詞を口にした。



 それが、二度目の夏。










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