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「あなたから弁護士を取ったら、何が残るかしら」 彼女はさも面白そうにぼくに問いかける。試しているようで興味本位でもある。 ぼくは考えるふりをして時間を稼ぎ、彼女の本心を読もうとした。 片眉を上げる彼女はそんな作戦を全て見越していて、ぼくはため息をついた。 事務所の窓からはホテルが見える。誰かが覗いている心配は、今日はなさそうだ。 「色々あるだろ。男のぼく、シェイクスピア役者を目指してたぼく、ピアニストのぼく」 「最後のは知らないわ」 「なりたかったんだ、昔。弾けないけど」 「あなた、法廷から出ると矛盾だらけのことしか言わないわね」 「そんな事ないと思うけど」 「じゃあそんな事はないんだわ。続けて」 上手く流された気がして少々不快ではあったけれど、ぼくは話し続けた。 丁度いい機会だと思った。何がって、弁護士以外のぼくを整理するのに。 「怠け者のぼく、片付けが苦手なぼく、意外と子供の扱いが上手いぼく…」 「思い込んだら一直線で執念深いのに非粘着で何故か周りに人が集まってくる人って、いるじゃない?」 「誰のことだよ」 「いるのよ。いるの。もうね、イヤになっちゃうわ」 「御剣か?……矢張だ。イヤ違うな…ああ、そうか、千尋さんと真宵ちゃんだ」 「私、女性には暴言は吐かないことにしてるの」 「今のは暴言だったのか。うすうす気付いてたけど」 「誰かを本気で憎んだり恨んだりって、したことある?」 「そりゃあ……あるよ。うん。決まってるだろ?」 「間があるのよね。嘘をつくと」 「君、弁護士になったらいいと思う」 「冗談」 小さく首を振って、細い手で言葉を制する。本当に冗談じゃない、と言った様子だ。 じゃあ君は本気で誰かを憎んだり恨んだりするのかと訊けば、彼女はあるわけないと吐き捨てた。 矛盾だ。言いがかりだ。不公平だ。何だこれは。 「私にはそこまで本気になるような出来事はなかったもの」 「ぼくにだってないぞ」 「そう思ってるのが冗談じゃないって言うのよ。弁護士ってみんなそうなの?」 「弁護士の話をしてるのかぼくの話をしてるのかどっちなんだ」 「もう、どっちなのかしら。自分でもわからなくなってきたわ」 「ぼくは弁護士の中でも変わりものらしいよ。週刊誌いわくね」 「じゃああなたの話をしてるんだわ。ややこしいわね、あなたと居ると」 「だから言ったんだ。キスされたとき。君も物好きだねって」 「あなたほどじゃないつもり」 嘘をつくときじゃない間を作り出して、ぼくは彼女をじっと観察する。 彼女の言わんとすることはわからないでもない。要するにぼくがお人よしだと言いたいのだろう。 ならハッキリとそういえば良いじゃないか。まるでぼくが何もわかってないみたいだ。 ぼくは焦らすのは好きだけど焦らされるのは大嫌いだ。彼女はそれを知っている。 「意地悪だ、君は」 「そうかもね」 「言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだい?」 「そこはほら、私も女の子だから」 「………全然わからないんだけど」 「…ねえ、成歩堂さんって皆に好かれるけどモテないタイプでしょ」 「うっ」 「良かった。ホッとしたわ」 「どこがだよ」 「まだ分からない?困ったわね…」 本当に困っていてくれるのだろうか。しかし鎖は鳴らない。多少は困ってるのかもしれない。 そうだよ。そもそもなんで鎖が鳴らないんだ。何も隠してないのにこの怪しさはなんだ。 「私のこと、少しでも好き?」 「もちろん」 「どこが?」 「そうだな…君は優しい。それに女性らしいし、しっかりしてる。だけど守ってあげたくもなるし」 「1つ目は計算、2つ目は演技、3つ目と4つ目は駆け引きだとしたら?」 「だとしても好きだ」 「言い切るわね」 「ぼくには嘘は通用しないんだよ」 「だけど本音が伝わらないわ」 「え?」 「私がこの事務所に来るのはね、」 弁護士でもそうじゃなくても、あなたの事が大好きだからよ。 ああやっぱり、彼女は弁護士になった方がいい。 敵には回したくないから。 |