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「僕を愛してくれる人を愛するのは当然だろう?」 「ああ、すごい。私、今、すごい感動しているわ」 「そうだろうね」 「私、宇宙人見たのは初めて」 「……………」 なんて斬新な感想だろう。今にも宇宙からの電波のギグが聞こえそうだ。 しばしの沈黙ののちに、彼女は確信犯の上等でかわいらしい微笑みを僕にくれた。 とりあえず現状から離れるべく僕は目を閉じ、小さく頭を振る。鎖が揺れた。 そして今行われた対話の中で何がおかしかったのかを冷静に、かつ真面目に考えてみることにする。 いや訂正。僕はいつだって真面目だ。 僕は僕を愛してくれる人を平等に愛しているし、僕の音楽を愛してくれる人も愛している。 もちろん僕は音楽を愛しているし、同じくらい女の子と真実を愛している。 そんな自分を多少詩人過ぎると思ったことはありこそすれ、嫌悪だとか落ち込むと言ったことはない。 僕にとって愛っていうのは出し惜しみしたり、数少なく大切に保管するものではないだけのことだ。 ありったけの愛をありったけのものに注ぐ。そうして僕は愛を注がれる。それでいいじゃないか。 「わかりやすく説明してくれないか。女の子のハートは小宇宙だね」 「女の子として言ったつもりはないんだけれど。そのままの意味よ。 ああ…ごめんなさい。多少のレトリックが含まれていたのは認めるわ。あなたほどじゃないけど」 「君は何しに来たんだい?おしゃべり?いじめ?」 「前者。しかもメロメロに褒め称えに来てると思ってくれていいわ」 「……まったく分かりにくいな、君は」 「あなたのその天然記念物みたいな純粋さがたまらなく好き」 「ああ…釈然としないけど嬉しいよ。ありがとう」 「レッドデータブックに載れそうなくらいの愛情がたまらなく愛しいわ」 「絶滅危惧種かい?僕は」 「そう。だから大切にしたいの。それだけのこと。あなたが好きよ」 なんだ、そういうことか。君もロマンチックではないけれどなかなかの詩人だね、と感心した。 彼女は白い腕を伸ばし、僕の頬に触れた。指先でピアスをいじる。それだけで幸福なのが恋だ。 だけど僕は彼女を抱き寄せる。体温が好きだ。髪の香りが好きだ。そういうのだって、幸福な恋だ。 そして身体を束縛した後は心の束縛が欲しくて、君に問いかける。 「でも君はさっきの発言を“女の子として言ったつもりはない”と言ったね?」 「ええ、言ったわね」 「僕はツキノワグマだとかウスリドーベントンコウモリだとかリシリムクゲネズミだとか、それらと同じかい?」 「人間の義務として大切にするべきものだといいたいのね?」 「僕は公務員の鑑だな。うんざりするほど」 「うっとりするところよ、そこは。公務員なら絶滅危惧種じゃないわね。だからあなたの証言は矛盾してるわ」 「君の意見を聞きたいな」 「あなたが好きよ」 「そういうことじゃない。…いや、そうなんだけど、そうじゃない」 「難しいわね…」 「そうなんだ。どうにかしてくれないか」 彼女はこめかみにキスをくれた。それでもいい。でもできれば、言葉で欲しい気分だ。 答えが欲しい。真実とおなじくらい。愛してるんだ。 「あなたが女の子っていう時は、ファンの子達を指す場合が多いわね」 「すべての女の子を指すときもある。…まあ、大体同義だと思ってた頃もあるけどね」 「私は女の子って歳でもないわね」 「女の子はいつまで経っても少女のままさ」 「流すわよ。それに、他の女の子達大勢と一緒にされるのが我慢ならないわね。個人的に」 何てことだ。アイドル失格だな。ああ、僕はもうアイドルじゃないんだっけ。いいや、そんなことはない。 ガリューウェーブのリーダーとしてあれだけ恋を歌ってきたってのに。女の子に夢を与えてきたってのに。 検事って言うのは面倒だな。ここにきて、真実を引きずり出さなきゃいけない、悪い癖が出た。 引きずり出す必要はないんだけど言わせたいんだ。朱の差した表情は、このまま流れに乗せられる。 「つまり?」 「あなたの恋人として、言った、という結論、にはなる、のかしら。ダメだわ。恥ずかしくなってきた。 違うわ。恥ずかしくさせてるのよ。あなたが!言わせたわね?」 「さすがだね。でも言った後に気付いたのは迂闊だった」 「全くだわ。あああもう顔が熱い。バカみたい」 「君はさっき流すべきじゃなかったね。君もまだまだ少女のまま、ってことさ」 「死にたくなってきた」 「させないさ。君こそ絶滅危惧種みたいだね。大事にしたくて仕方ない」 愛の告白は簡単に出来るのに、どうして恋人だとは恥ずかしくていえないんだろう。 やっぱり女の子のハートは小宇宙だ。とりあえず、飲み込まれる前に唇で塞いでしまおう。 |